もっとも身近に楽しめる天体ショーの1つに日食があるかと思います。古くは紀元前1,400年頃の古代メソポタミアに日食に関する記録が残されています。また、古代エジプトでは、太陽を神と崇める宗教が信仰されていましたが、昼間なのに太陽が見えなくなるという現象は、どれだけ当時の人々を不安や恐怖に陥れたことでしょう。でも、紀元前2世紀頃のギリシアでは、天文学の研究が進み、日食が起こる時期まで予測していたそうです。
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日食ってどんな現象?
簡単に言うと、太陽が月でかくれて見えなくなる現象を日食といいます。太陽のかくれ具合によって、日食には以下の種類があります。
それぞれの特徴を簡単に言うと以下の通りです。
・皆既日食
太陽が月の影にすっぽりおさまってしまった状態。普段は太陽の光が明るくて見えない、「コロナ※1」や「 プロミネンス ※2」を見ることができます。
・金環日食
太陽の外側のふちが月からはみ出てみえている状態。
・部分日食
太陽の一部分が月でかくれた状態。
※1 太陽をとりまく100万度以上の高温のガス。
※2 太陽の表面から噴き出した高温のガス。
なぜ月で太陽がすっぽりかくれてしまうの?
月で太陽が見えなくなると書きましたが、太陽の直径は139万キロメートル、月の直径は3,500キロメートルと大きさに約400倍の違いがあります。では月は自分よりも400倍も大きい太陽をどうしてかくすことができるのでしょうか?
これには地球から見たときの太陽と月の見た目上の大きさを考える必要があります。遠いものほど小さく見え、近くのものほど大きく見えるため、太陽と月の地球からの距離も考える必要があるんですね。太陽と地球の距離は約1億5000万キロメートルあります。そして、月と太陽の距離は約38万キロメートルあります。
この2つの距離を比べると、太陽までの距離の方が約400倍長いです。ここで太陽と月の直径(大きさ)の違いを思い出してください。これも約400倍の違いがありました。つまり、太陽は月よりも400倍大きいけれど、地球からの距離が400倍も遠いため、地球から見ると、太陽と月はほとんど同じ大きさに見えるんですね。そのため、太陽が月の影にすっぽり隠れてしまったり(皆既日食)、太陽のふちだけがはみ出て見える金環日食がおきるのです。
地球にとって最も身近な天体である太陽と月が、地球から見た時の大きさがほとんど同じだなんて不思議だと思いませんか? でも、これはただの偶然の一致なんです。これによって僕たちは日食を見ることができるのです。
日食はなぜ珍しいの?
日食は、太陽と地球の間に月が入ることで、太陽が月にかくれて見えなくなる現象です。月は地球のまわりをおよそ27日かけてまわっています。それなら太陽と地球の間に月がくることなんて、27日おきに発生するんじゃない? なんで日食が珍しいの?って疑問に感じる人もいるかもしれません。
日食が起きる仕組みはこんなに簡単ではありません。なぜなら、地球が太陽のまわりをまわっている面(黄道面)と、月が地球の周りをまわっている面(白道面)が一致しないからです。
上の図のように 白道面 は黄道面に対して約5°傾いているため、単純に月が地球から見て太陽側にあるだけでは日食が起きるとは限らないんですね。例えば月がAの位置にある場合、月は黄道面から約3万3千キロメートルも離れており、地球と太陽の間に月がないため、日食になりません。それに対し、月がBの位置にある場合は、地球と太陽の間に月があるため、日食になります。つまり、月が地球からみて太陽側にあり、かつ、月が黄道面付近にある場合にだけ日食が発生するため、珍しい現象なのですね。
日食に種類があるのはなぜ?
先に日食には3種類あると述べました。ここでは日食に種類がある理由について説明したいと思います。
まず、皆既日食が見られる時の模式図を示します。
この図では、地球上のグレーの部分( 例えばA地点にいる人 )で皆既日食が見られます。この部分にいる人からはどうやっても月がじゃまで太陽が見えない状態です。一方、グレーの部分を外れたB地点にいる人には、月が太陽を覆いかくしきれず、部分日食がみられます。
次に、金環日食が見られる時の模式図を示します。
この図では、地球上のグレーの部分 (例えばA地点にいる人) では金環日食が見られます。 一方、グレーの部分を外れたB地点にいる人には部分日食がみえています。
違いが分かりやすくなるように太陽、月、地球のサイズや距離は変えていますが、皆既日食がみられるか、金環日食がみられるかの違いは、地球と月の距離によります。地球と月の距離が近ければ皆既日食がみられ、遠ければ金環日食が見られます。また、皆既日食(もしくは金環日食)と部分日食がみられるかの違いは、地球上で観察する人の位置の違いによります。
それでは、なぜ地球と月との距離が変わるのでしょうか? 先に月が黄道面付近にきた時に日食がみられるとも説明しました。月が地球の周りを楕円形の軌道を描いて公転していますが、日食がみられるのが月が黄道面付近にきた時に限られるのであれば、地球と月との距離は一定じゃないのか?と思われる方もいるかもしれません。ところが、月の公転軌道はそんなに単純なものではありません。その原因として、月には地球だけでなく、他の天体との引力も働いていることがあげられます。とりわけ、太陽との引力による影響が大きいです。
月には単純に地球との引力だけでなく、太陽との引力も働いているため、月の公転軌道は一定ではなく、ある程度のゆらぎがあります。そのため、月が黄道面にきたときの地球と月との距離は変化します。また、黄道面と白道面の角度も平均して5°程度ですが、これもある程度の範囲で変化しています。
ここでNASAの日食に関するホームページを紹介したいと思います。
https://eclipse.gsfc.nasa.gov/eclipse.html
このページには日食が発生する日毎にどの地域にどの日食がみられるのかを示した図が掲載されています。例えば、2021年~2040年までの期間で日食がみられる地域を示した図が以下です。
青い帯で示された「Total Eclipse」とは皆既日食、赤い帯の「Annular Eclipse」とは金環日食がみられる地域を示しています。ピンク色の帯の「Hybrid Eclipse」とは、皆既日食もしくは金環日食のどちらかがみられる地域を示していますが、発生頻度はとても低いです。
この図は、メルカトル図法で描いた世界地図に日食がみられる地域を示しているため、北極や南極付近でいびつな形をしていますが、地球の地軸(自転の軸)は黄道面に対して23.4度傾いていること、地球ご自転していること、月も公転で動いていることよりよ、日食がみられる地域はこのように帯状に分布されます。この図では部分日食がみられる地域までは示されていませんが、特に皆既日食、金環日食がみられる時期や地域は限られ、希少な事象であることがわかると思います。日本では、2030年代になるまで、 皆既日食、金環日食はみることができないんですね。
また、先ほど紹介したホームページには日食が発生する日付毎の詳細な図も示されており、例えば2019年12月26日の予想は以下の通りです。
こちらの図では赤の帯が金環日食が見られる地域を示していますが、部分日食がみられる地域も水色のラインで示されています。日本列島では部分日食がみられるようですね。
皆既日食が将来見られなくなるって知ってますか?
地球と月の距離の違いによって、皆既日食と金環日食のどちらがみられるかが決まることを説明しました。 地球と月の距離 が日食にとって重要な要素になるのですが、実は、この距離は毎年約3センチメートルずつ長くなっています。地球と月の距離が長くなっていくため、いずれ、皆既日食はみられなくなってしまいます。でも、心配は無用です。皆既日食がみられなくなるのは、6億年くらい先のことだそうです。地球は46億年前に誕生しましたが、これと同じように人の一生と比べるとずいぶんタイムスケールの違う壮大な話ですね。
次に日食がみられるのはいつ?
今後、日本でみられる日食は以下の通りです。
2019年12月26日 部分日食(全国)
2020年6月21日 部分日食(全国)
2023年4月20日 部分日食(九州~東海の沿岸)
2030年6月1日 金環日食(北海道)
2031年5月21日 部分日食(九州南部以南)
2032年11月3日 部分日食(全国)
2035年9月2日 皆既日食(北陸~関東)
とりあえず、2040年までの予定を記載しましたが、金環日食、皆既日食がみられる機会はなかなかありませんね。
日食を観察するときの注意点
日食を観察する時は、以下に気をつけましょう。
・肉眼で直接太陽を見ない。
・望遠鏡や双眼鏡を使って太陽を見ない。
・色付き下敷きを通して太陽を見ない。
・サングラスやゴーグルを使って太陽を見ない。
日食が起きている間は太陽が暗くなりますが、それでも強い光を放っているため、上記のような見かたをする目を痛めてしまいます。日食専用のグラスや遮光板を使うようにしましょう。アマゾンなどで千円もせずに入手できますよ。