小惑星「りゅうぐう」への2度の着陸に成功した「はやぶさ2」に続いて、宇宙航空研究開発機構(JAXA)にて新しい小惑星探査機「DESTINY+(ディスティニープラス)」の開発が進んでいます。計画では、2021年に打ち上げし、ふたご座流星群の母天体である小惑星フェートンを目指します。フェートンとのすれ違いざまに宇宙空間のちり(宇宙ダスト)を捉え、その場で分析した結果を地球に送信する予定です。「宇宙ダスト」は地球の生命誕生に関わる重要な物質と考えられていますが、今回の調査でこの宇宙ダストの特性や生成されるメカニズムを解明しようとしています。
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生命の起源について
地球が宇宙に誕生したのは46億年前で、40~38億年前の原始海洋でタンパク質が合成され、これをきっかけに生命が誕生したと考えられています。さまざまな仮説がありますが、その1つに、宇宙空間を高速で飛び交う「宇宙ダスト」に含まれる炭素や有機物が地球の生命の起源になったという仮説があります。この仮説を検証するため、宇宙ダストの研究が精力的に進められています。
宇宙ダストが地球に飛来する経路
地球に飛来する宇宙ダストは、大きく分けて以下の2つの経路 が考えられています。
① 不特定多数の彗星や小惑星から放出されたダストのうち、小さいもの(数ミクロン以下)が黄道面(地球などの惑星が太陽のまわりを公転している面)に分布し、太陽のまわりを公転しながら徐々に太陽に引き付けられていく途中で地球に飛来する。このような宇宙ダストは、「惑星間ダスト」と呼ばれます。
② 地球の公転軌道と交差する軌道を持つ彗星や小惑星から放出された数百ミクロンサイズ以上のダストが流星群と一緒に地球に降り注いでくる。流星群については以下の記事をみてください。
100ミクロン以下の小さな宇宙ダストは地球の大気圏を通過する際に加熱の影響を受けません。そのため、年間約2,500万トンが地上にゆっくり降り積もっていると推定されており、地球外からきた炭素や有機物が生命の起源となった可能性が高いと考えられています。
今回の調査の目的
宇宙ダストは地球の生命の起源を研究する上で重要な物質ですが、ふたご座流星群の母天体である小惑星フェートンを対象とした今回の調査では、以下を目的としています。
目的①
「惑星間ダスト」の粒子毎の軌道を特定したり、組成を分析することで、その全体像を明らかにする。
目的②
ふたご座流星群の母天体である小惑星フェートンの表層の地形を観察することで、小惑星から宇宙ダストが放出される仕組みを明らかにする。
目的③
小惑星フェートンから放出される宇宙ダストの特徴を明らかにする。
調査方法について
DESTINY+では、これらの目的を達成するため、以下の方法で調査をする予定です。
方法①(目的②の達成のため)
フェートンは、太陽に最も近づいた時で0.1天文単位、最も遠ざかる時で2.4天文単位の楕円軌道を周回しています。そして、地球軌道を秒速35キロメートルの高速で横切っているため、探査機をフェートンに着陸させることが困難です。そのため、約500キロメートルの距離までフェートンに接近し、すれ違いざまに超望遠カメラにより表層の地形を調査したり、複数波長の分光カメラにより表層の物質分布を調べます。
フェートンをすれ違いざまに撮影しますが、撮影が可能な時間はわずか1分程度ととても短いです。フェートンの軌道を予測して探査機の動きを決定し、観測する作業はほぼ全自動で行われます。このように天体とすれ違うだけで観測する方法を「フライバイ」と呼びます。
方法②(目的①、③の達成のため)
ダストアナライザにより、フェートンから放出された宇宙ダストの化学組成や速度、サイズ、到来方向をその場で分析します。さらに、衛星が地球周回軌道を離れてからフェートン到着までの航行期間中は、ダストアナライザにより「惑星間ダスト」の分析も行います。
はやぶさ2の調査との関連
小惑星には炭素や有機物が多く含まれるものがあり、宇宙ダストではなく太古の地球に衝突した小惑星の物質が生命誕生につながったという仮説もあります。はやぶさ2では、この仮説を検証するため、直接、小惑星に着陸し、サンプルを採取して持ち帰ろうとしています。このような手法を「サンプルリターン」と呼びますが、先代の探査機「はやぶさ」にてその手法が確立されました。
サンプルリターンに加えて、今回の調査にてフライバイの技術が確立できれば、限られた宇宙予算の中で探査の対象や頻度の拡大につながると期待されています。