このピラミッドは、ギザから南に約10キロメートルの位置にあるサッカラにあり、「ジョセル王のピラミッド」ともいわれます。サッカラは古代エジプトの首都であったメンフィスの西にあり、メンフィスのネクロポリス(巨大な墓地もしくは埋葬場所)として多数のマスタバ(※)やピラミッドが造られています。そんな中で、このピラミッドは典型的な階段上のピラミッドで、エジプト最古のピラミッドともいわれ、その建設方式や宗教的な意味合いは後世のエジプト社会に大きな影響を与えたといわれています。
※ エジプト先王朝時代末期頃からエジプト中王国時代頃にかけて建造された長方形の大墓で、当時の位の高い人の墓の形態。
外観の特徴
高さ62メートルあり、当時、最も高い建物でした。通常、ピラミッドの底面は正方形ですが、このピラミッドは東西125メートル、南北109メートルと底面が長方形になっています。 ピラミッドの地下には深さ28メートルの地下室が設けられており、遺体を納める玄室や、玄室を取り巻く多数の部屋、回廊が張り巡らされています。
このピラミッドは、石灰岩を直方体のブロック状にして、それを積み上げて築かれています。それ以前の建造物は日干しレンガと石材の併用で造られており、今ではほとんどが風化してしまっていますが、このピラミッドは全体を石材で建造されており、今でもその外観が残されています。300万個程度のブロックが使われていますが、1つのブロックの大きさは幅は70センチメートルから1メートルメートル程度で、厚さはわずか10センチメートルと小型です。これは、当時はまだソリが発明されていなかったため、巨大な石を運ぶ術がなく、石を薄く切る必要があったのだと考えられています。
このピラミッドは東西に277メートル、南北に545メートルの高さ10メートルの壁に囲まれていますが、人が出入りできる入り口は1つしかありません。施設全体の広さは15ヘクタールで、サッカラ大地で最も高い位置にあり、壁の中には、ピラミッド以外に神殿や宮殿等があります。このように、ピラミッドや神殿、葬祭殿やそれらに付属する建物をまとめて「ピラミッド・コンプレックス」と呼ばれます。
いつ誰が作ったの?
紀元前2,667年に、第3王朝2代目ファラオのジョセル王が宰相のイムホテプに命じて建造に着手しました。ピラミッドと同じ壁内にある神殿や宮殿は、ジョセル王が死後の世界で使うためのものとされています。イムホテプは、できるだけ施設を長くもたせるため、材料として石材のみを使いました。全体を石造で建設する建造物としてはエジプト史上初であり、このピラミッドの建造によって、イムホテプは建築家としても名声を博しています。施設の規模や作りこまれた数多くの装飾から、当時の最高峰の技術を投じて建てられたことが分かります。
当初は初期王朝時代から見られる正方形のマスタバとして高さ10メートル、一辺63メートルの規模で建設される予定でしたが、偉大なファラオであるジョセル王には質素すぎるということで、東側に向けて何度も拡張され、最終的にはマスタバを6段重ねた階段状のピラミッドになりました。
ジョセル王とは、どれだけ偉大な王だったのでしょうか?
ジョセル王とは?
第3王朝の第2代目のファラオで、紀元前2668~2649年の19年間にわたって王座にありました。在位中はホルス・ネチェルイリケト(神の肉体)と呼ばれており、ジョセル(「聖なる」と意味する)という名は死後数百年たってからつけられた敬称です。
ジョセル王の時代、エジプトはシナイ半島の鉱物資源で得た富を利用し、南方のアスワン付近まで勢力を拡大しました。また、彼は初めてメンフィスに居住し、地域政治の中心的な拠点にしました。エジプト史上、最も偉大なファラオの一人とされていますが、功績に関する文献があまり残されておらず、現代では、エジプト史上初のピラミッドを建造させた王として広く知られているようです。
何のために作られた?
ピラミッドはナイル川渇水による飢饉をしずめるために建造されたとも伝えられていますが、神的性格を持った偉大な王の墓として、その他の臣下の墓とは一線を画す墓形式として新たに設計されたものと考えられます。単純な王の葬祭施設だけでなく、現世における王の権威を象徴する建造物としての意味を強く持っていたようです。
現在の状況
遺跡荒らしや地震、4,600年の時間経過による侵食で、周囲を囲む壁は下層部の一部しか残っていません。また、ピラミッドもだいぶ傷んだ状態になっており、イギリスとエジプトの専門家チームにて対応をしていましたが、2011年のエジプト革命によって作業が中断されてしまいました。
その後、政府から修復工事を請け負った会社が対応しましたが、この会社の文化財の保護と維持に関する意識が低く、修復関連法の制限(新たに建設する部分を全体の5%未満にとどめること)を超えて新しい壁や骨組みを作ってしまい、かえって倒壊しそうな状態になってしまいました。エジプトの政情が落ち着き、各国の学者達が現場に戻り始め、問題が発覚したようです
現在でも修復作業が継続されているようですが、専門家を入れてやり直すという話もなく、この歴史的に貴重な建造物の保全に関して、危機的な状況にあると言えます。
見にいくには?
サッカラのピラミッドはカイロから日帰りで観光できる位置にあるため、現在ではカイロのホテルに宿泊し、ギザやダハシュールのピラミッドと合わせて観光するツアーも組まれています。
外務省の海外安全ホームページによると、危険度は「レベル1:十分注意してください。」(その国・地域への渡航,滞在に当たって危険を避けていただくため特別な注意が必要です。)であり、インド、ミャンマー、カンボジア、サウジアラビアと同程度の危険度になります。一時に比べると安全になったようですが、危険度が「なし」となるまで待っていては、いつまでも見に行くことはできなさそうです。これは仕方のない話ですね。